2024年12月5日

010-2.ロボット競技に役立つEV3機構入門-第3回「4節リンク機構」と「スライダ・クランク機構」

ここでは、教育版レゴ マインドストームEV3のパーツを使って、ロボット競技にも役立つ色々な機構を学習していきます。
最終的には、ロボット競技でよく登場する“ある動き”のしくみが分かるようになることを目指します。(文/福井大学工学部 川谷研究室 伊藤政亮 大塚健太)

今回は、「4節リンク機構」と「スライダ・クランク機構」を使った仕組みを説明していきます。
※説明のイラストが見にくい場合は、イラストをクリックすると大きなサイズで見ることができます。

◆ 4節リンク機構を使った仕組み

1つ目のテーマは4節リンク機構です。
4節リンク機構とはどんなものかを私たちの身近にある自転車を使って説明します。

まず、4節リンク機構とは左図の赤線で繋がった四角形のことを言います。
左図で、4節リンク機構は4つの赤線で成り立っており、赤線を「リンク」と呼びます。

リンクはそれぞれ、原動節(げんどうせつ)、従動節(じゅうどうせつ)、中間節(ちゅうかんせつ)、固定節(こていせつ)のように名前と役割が分けられています。
では、4つのリンクの役割をみてみましょう。
原動節・・・機構に動力を与えるリンク
従動節・・・機構の運動を外部へ出力するリンク
中間節・・・原動節と中間節の間で、運動の伝達・変換を行うリンク
固定節・・・固定されて動かないリンク

左図は、自転車のペダル付近を拡大した図です。
4つの節を自転車の例に当てはめると、
・原動節が動力を与える太ももの部分
・中間節がひざからペダルまでの部分
・従動節が自転車のクランク部分
・固定節が自転車のフレーム部分
になります。

4節リンク機構は、てこ・クランク機構、両てこ機構、両クランク機構に分けることができます。

自転車に使われている4節リンク機構は、てこ・クランク機構です。

てこ・クランク機構の特徴は、揺動運動(ようどううんどう)を回転運動に変えることです。
また、その逆の回転運動を揺動運動に変えることもできます。
用語の説明を以下に示します。

揺動運動 ・・・ 自動車のワイパーのように弧を描いて往復する運動
てこ     ・・・ 揺動運動するリンク
クランク   ・・・ 回転運動するリンク

自転車の例で考えると、太もも(てこ)を揺動運動させることによりクランクが回転し、自転車に動力を伝えることができます。

4節リンク機構は4つのリンクによって成り立っていますが、リンクの長さが適当では成り立ちません。
左図を見てください。
左図は、てこ・クランク機構が三角形になる瞬間を表わしています。

ここでポイントとなるのは、三角形の辺の性質です。
三角形には「2辺の長さの和は、他の一辺の長さより大きい」という性質があります。
この性質を左図の①~④で考えると、以下の条件が成り立ちます。
① a+d ≤ b+c
② b-a ≤ c+d また (b-a)+d ≥ c → a+c ≤ b+d
③ d-a ≤ b+c また (d-a)+b ≥ c → a+c ≤ b+d
④ a+b ≤ c+d

上の式の条件をまとめると、次のように表現することができます。
(最短リンク) + (他の1つのリンク) ≤ (残り2つのリンクの和)
これを「グラスホフの定理」といい、この定理を満たす機構をグラスホフ機構といいます。

4節リンク機構は、てこ・クランク機構、両てこ機構、両クランク機構の3種類に分けられると説明しました。この種類は、固定するリンクの長さの違いによって分けられます。

てこ・クランク機構は最短リンクの隣のリンクを固定しています。
両てこ機構は最短リンクと向かい合うリンクを固定し、両クランク機構は最短リンクを固定しています。

ここまでの説明をまとめると左図のとおりです。

私たちの身近にある例の1つとして自転車を取り上げましたが、このほかにも4節リンク機構は自動車のワイパーや扇風機の首振りのなど、いろいろなとこに使われています。

では、実際に問題を解きながら、どのようなしくみか確認してみましょう。
問題では次のパーツを使用します。問題によって使用するパーツ、使用しないパーツがあります。

使用するパーツ

5・7・9・11・13ビーム

各2個

40・ギア

1個

固定ペグ

各3個

固定ペグ

2個

長さ:5

1個

◆ 【問題1】

左のパーツを使って「てこ・クランク機構」を作るためにはどうすればよいでしょうか?
※ビームの長さは、5・9・11・13を使用します。

《作り方のポイント》
1.固定節のビームの端に、下のパーツを下図のように取り付けてください。

2.回転ペグを使って、ビーム同士がぶつからないように段差をつけてください。

◆ 【問題1の答え】

では、問題1の答えを見てみましょう。

正解の1つとして、左図のようなビームの組み合わせが考えられます。
この問題のポイントは、最短リンクの隣のリンクを固定することです。

てこ・クランク機構を構成するためには、最短リンクの隣のリンクを固定しなければなりません。

次にグラスホフ機構が成り立っているか確認してみましょう。
5・9・11・13ビームの長さを、それぞれ5、9、11、13とします。
グラスホフ機構は、

(最短リンク) + (他の1つのリンク) ≤ (残り2つのリンクの和)

が成り立つので、最短リンクの長さを5として考えると、
(1) 5+9=14 ≤ 11+13=24
(2) 5+11=16 ≤ 9+13=22
(3) 5+13=18 ≤ 9+11=20
となります。

このことから、グラスホフの定理を満たしていて、てこ・クランク機構が成り立つことが分かります。

クランクを動かした様子はこちら
この動画は、クランクを時計回りに回転させています。
てこが、揺動運動をしていることを確認してみよう。

なお、てこを原動節として力を加えてみると、クランクが上手く回らなくなるときが出てくると思います。
そのような機構の状態を死点と呼びます。

左図のようにリンクc(てこ)を原動節として動力を与えたとき、リンクaとbが一直線に並んだ場合には、従動節a(クランク)に上手く動力を伝えることができません。

◆ 【問題2】

左のパーツを使い「てこ・クランク機構」を作り、設置されているビームを揺動運動させるためにはどうすればよいでしょうか?
※ビームの長さは、7・9・13を使用します。

この問題の土台は、下のパーツを使いブリックを横につなげてください。

横からみた図

◆ 【問題2の答え】

では、問題2の答えを見てみましょう。

正解の1つとして、左図のようなパーツの配置が考えられます。
この問題のポイントは、見えないリンクを考えることです。

左図は、「てこ・クランク機構」の部分を拡大した図です。
クランクの部分には説明のため緑色の3・ビームを追加で取り付けました。

この問題では、従動節や固定節のパーツがありませんでした。
そのため、歯車の半径をクランクとして考えます。(緑色のビームを取り付けた部分)
次に、左図の赤線の部分は動かないため固定節と考えます。
よって、最短リンク(緑色のビーム部分)の隣のリンクが固定されているため「てこ・クランク機構」が成り立っていることが分かります。

実際に動かした様子はこちら
この動画は、歯車を時計回りに回転させています。
設置されていたビームが揺動運動をしていることを確認してみよう。

この機構はワイパー機構と呼ばれ、一般の自動車にも使われています。

このテーマでは、4節リンク機構の種類とその特性について説明しました。固定するリンクの長さにより、他のリンクの動きが変わることが分かりました。

◆ スライダ・クランク機構の仕組み

2つ目のテーマはスライダ・クランク機構です。

スライダ・クランク機構とは、3つの回転部と1つのすべり部によって成り立ちます。

スライダ・クランク機構には,4種類あります。
①往復スライダ・クランク機構(左図)
②回転スライダ・クランク機構
③揺動スライダ・クランク機構
④固定スライダ・クランク機構

ここでは、一般的な往復スライダ・クランク機構について説明し、他の機構については簡単に説明します。

①往復スライダ・クランク機構とは
クランク(回転するリンク)の回転運動をスライダの往復直線運動に変える機構です。
逆に往復直線運動を回転運動に変えることもできます。

クランクを1回転させることでリンクによってつながれたスライダが1往復します。

クランクを1回転させるためには、
 リンクAの長さ < リンクBの長さ
でなければなりません。

また、スライダが移動する距離は、クランクの長さの2倍になります。

この仕組みは自動車のエンジンや蒸気機関車の動輪に使われています。

②回転スライダ・クランク機構とは
リンクABを固定し、スライダの運動によりACの長さが伸び縮みすると、リンクBCがBを中心に回転します。
これは、パワーショベルのアームに使われています。

③揺動スライダ・クランク機構とは
リンクBCを固定し、Bを中心にリンクABが回転することでACが揺動運動を行います。
これは、車のワイパーや二足歩行ロボットに使われています。

④固定スライダ・クランク機構とは
Cを固定することで、Aの往復運動をBの揺動運動に変えます。
これは、手動式汲み上げポンプに使われています。

では、実際に問題を解きながら、どのようなしくみか確認してみましょう。
問題では次のパーツを使用します。問題によって使用するパーツ、使用しないパーツがあります。

使用するパーツ
  

3・5・7・9ビーム

各2個 1個

40・ギア

1個

24・ギア

1個   

回転ペグ

3個

固定ペグ

4個
1個

長さ:3・5

1個

◆ 【問題1】

左図の部品を使って、クランクを1回転させるとスライダが往復運動を約3cm(リンクの穴:4個分)するにはどのようにすればよいでしょうか?

◆ 【問題1の答え】

では、答えを見てみましょう。

正解は左図のようにパーツを置きます。

この問題のポイントはクランクの長さにあります。
それは、クランクの長さが、スライダの移動距離に関係しているからです。

左図のようにスライダの移動距離はクランクの長さの2倍なので、スライダを約3cm移動させるには

クランク長さ×2=スライダの移動距離

で、クランクは約1.5cm(リンク穴:2個分)のものを使用すれば良いことがわかります。

実際に動かした様子はこちら
クランクを回転させると、スライダが往復直線運動します。手でクランクを回して、スライダの様子を確認してみましょう。

それでは、もう1問。

◆ 【問題2】

左図のように、クランクの部分を歯車に変更し、この歯車に駆動歯車をつなげます。
駆動側の歯車を3回転させるとスライダが5回往復するには、どのようにすればいいでしょうか?

◆ 【問題2の答え】

では、答えを見てみましょう。

正解は左図のように置きます。

この問題のポイントは歯車の歯数にあります。

駆動側の歯車の歯数が40、従動側の歯車の歯数が24です。
そのため駆動側の歯車を1回転させると従動側は1.7回転します。

スライダはクランクが1回転すると1往復するので、この場合は1.7往復します。
 駆動側の歯車:スライダ=1:1.7
となります。

よって駆動側の歯車を3回転させると
 駆動側の歯車:スライダ=3:5.1
となり、スライダが5往復します。

実際に動かした様子はこちら
左側の歯車を回転させると、スライダが往復運動します。手で左側の歯車を回して、スライダの様子を確認してみましょう。

今回は、固定するリンクを変えることで様々な動きを行う4節リンク機構や回転運動を往復運動に変えるスライダ・クランク機構の仕組みについて説明しました。

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